メルセデス・ベンツやドイツ車にそれほど詳しくなくとも、クルマ好きならば「W124」や「500E」といった名前を一度は見聞きされたことがあるのではないでしょうか?
W124とは、1984年から1997年まで生産され、ミディアムクラス/Eクラスとして販売されたメルセデス・ベンツのモデルのコードナンバーです。そして、このW124のスペシャルモデルとして設定されたのが500E(生産後期はE500に名称変更)でした。
今回はメルセデス・ベンツ W124の500E/E500について徹底解説、生産終了から20年を経ても尚も高い人気を持つ、その背景を紐解きます。また、特別な内装を持つE500リミテッドをはじめ、500E/E500、そしてW124の内装の修理・カスタムの情報もお届けします。
メルセデス・ベンツ W124の沿革
メルセデス・ベンツ W124は、メルセデス・ベンツが1984年から1997年まで生産したEセグメントの乗用車です。基本モデルとなるセダンは、W124が発表された1987年11月から生産開始、またステーションワゴン、クーペ、カブリオレ、そしてセダンのホイールベースを延長したリムジン仕様がボディバリエーションとして順次拡充されていきました。
W124は1967年発表のW114/W115、1975年発表のW123の流れを汲むもので、当初は「ミディアムクラス」として発売されました。元々1980年代までは全長5m前後のFセグメント(Lセグメントとも呼ばれます)の乗用車を主力製品としてきたメルセデス・ベンツにとってEセグメントは相対的に小型であったため、W123までは決して小型車ではないにも関わらず「コンパクトクラス」と呼ばれて販売されていました。しかしより小型なW201(190クラス、日本では190Eとして知られています)がW123のモデルライフ中に登場したことからW123の呼称がミディアムクラスに変更されており、W124も登場時はその名称を継承したのです。
モデル末期の1994年モデルからはメルセデス・ベンツが車種のバリエーションの増加を見据えてラインアップを再編したことに伴い、W124の名称はEクラスへと変更されました。そのため、W124は初代Eクラスとして紹介されることもあります。
1995年には後継モデルとして、丸いヘッドライトのインパクトが話題を呼んだW210が登場、W124の生産は順次W210に切り替えられました。セダンは1995年7月に生産終了、翌1996年にはステーションワゴンとクーペが生産終了しましたが、カブリオレの生産は1997年まで続きました。W210にはクーペとカブリオレが設定されませんでしたが、実質的な後継車種として、初代Cクラス(W202)をベースとしたCLAクラス(W208)が用意されました。
生産期間が長いことから、W124には多彩な仕様が存在しました。その中でも際立って存在感が強く、知名度も高いのが、今回ピックアップする500E/E500です。
500E/E500の特徴
500Eは1990年のパリモーターショーで発表、同年より生産が開始されました。1994年モデルからはミディアムクラスがEクラスへと名称変更・マイナーチェンジを受けたことに伴い、500Eもマイナーチェンジを受け、またE500へと名称の変更を受けました。最終生産年は1995年で、生産台数は10,479台と記録されています。
信頼性や耐久性、性能を重視したモデルを生産してきたメルセデス・ベンツですが、スポーツセダンというカテゴリーにも古くから断続的に取り組んできました。しかし、500E/E500は同郷シュトゥットガルトのポルシェに開発を委託し、生産もポルシェの工場で行われたという点で、空前絶後のモデルです。
実際に販売された500E/E500の台数は、その過半数である5,475台をドイツ本国が占め、アメリカ合衆国の1,528台、日本の1,184台と続きます。またドイツ仕様の日本への並行輸入も多く、最盛期には日本には3,000台以上が存在したとも推測されていますが、近年は海外への再輸出などで、その数を以前よりも減らしていると見られています。しかし依然として日本での人気も高く、ドイツ車やメルセデス・ベンツのファン以外からの注目度も高いモデルです。
実際のところ、シリーズ総計で256万台以上が生産されたW124の中では少数派だった500E/E500がビジネスとして成功だったかは賛否両論が分かれています。しかし当時としては珍しかった、EセグメントのセダンへのV型8気筒エンジンの搭載、R129型SLクラスからの部品流用、そして開発や生産をメルセデス・ベンツの同郷であるポルシェが請け負ったことなど、その逸話は枚挙に暇がなく、また後年のハイパフォーマンスセダンの礎を築いたモデルとして、500E/E500が自動車史に名を残すモデルであることは疑いようがありません。
エクステリア
W124のエクステリアデザインは、当時メルセデス・ベンツに在籍していたイタリア人、ブルーノ・サッコが手掛けたものです。サッコはW126(Sクラス)、W201(190)に続いて、このW124をデザインしましたが、実用性の強化、また当時高まる環境問題への意識の高まりやメルセデス・ベンツの取り組みを反映して、斬新な取り組みが行われています。
実用面ではトランク開口部が斜めに切り込まれ、開口部の下端もバンパーレベルに近い部分まで下げられるなど、トランクを持つ過去のメルセデス・ベンツでは最大級となりました。これに伴い、これまで横に長かったテールランプは台形の小ぶりなものとなっています。運転席側は横に広く、助手席側で縦に広いという、それぞれでの視野を最適化することを目指した左右非対称のドアミラーもW201に引き続き採用されました。
さらに燃費向上のために空気抵抗の低減に配慮されており、先代W123で見られたメッキパーツもフロントグリルとリアエンブレムを除き全廃、サイドモールも樹脂製とされ、ボディ表面の隆起を減らす、フラッシュサーフェイス化が進められました。フロントやリアのバンパーに至ってはイタリア・フランスの大衆車を思わせるような樹脂成型色そのままのものが採用されています。フラッシュサーフェイス化は先行したW201でも行われた取り組みでしたが、さらにW201以前に比べてノーズ部分に傾斜が設けられたこともあり、標準モデルの空気抵抗係数(Cd値)は、わずか0.29に抑えられています。さらに前面投影面積を抑えるためにボディの幅は先代であるW123を46mm下回る1,740mmに抑えられ、4,740mmの全長とあいまって、やや細長いプロポーションを持っています。
一方で、「Das Beste oder nichts.(最善か無か)」を謳う当時のメルセデス・ベンツの哲学は全面的に継承されました。雪や泥が付着しても視認性を確保するために凹凸が設けられた伝統のテールランプや、左右を異なる形状としてそれぞれ視野を最適化したドアミラーは、その分かりやすい例です。
とはいえあまりに簡素なデザインには賛否両論がわかれ、1990年にはマイナーチェンジを受け、前後バンパーの大部分の同色化、ボディサイドへの樹脂パネル(通称サッコプレート)の追加装着が行われました。またバンパー上端とサッコプレート上端には控えめですがメッキモールも復活し、ややプレミアム志向への方針転換、また従来のミディアムクラスへの路線回帰が行われたことになります。
さらに1993年にはEクラスへの移行に伴う再度のマイナーチェンジを受け、ヘッドライトとフロントグリルのデザインが1991年に登場したW140型Sクラスに近づけられ、前後バンパーの完全なボディ同色化、トランクリッドへのメッキ加飾追加などにより、プレミアムモデルとしての位置づけを強くしています。これは当時北米で圧倒的な品質を低価格で実現して業界に激震を起こしたレクサスの初代LS(日本名セルシオ)への対抗の意図もあったと言われています。LSはFセグメントのモデルで、本来はメルセデス・ベンツにとってはSクラスの対抗馬でしたが、価格面ではセグメント下のミディアムクラスとも十分に競合し得るものでした。
500EとE500のデザインは、基本的には生産年のW124のものを踏襲しており、極端なデザイン面での差別化は行われていません。しかしフロントで35mm、リアで30mm拡大されたトレッドと、大出力を受け止めるためにタイヤ幅が標準の195に対して、(当時としては太かった)225となったことからフェンダーが拡大され、全幅は55mm広い1,795mmに拡大されています。またフロントバンパーはオーバーフェンダーに連なる専用形状のものが与えられ、ヘッドライト部に内蔵されていたフォグランプをエアダム部に移設、新たにヘッドライト部にはドライビングライトが増設されました。
これはW124をよく知る人が見れば明らかな違いとして気付くものですが、ハイパフォーマンスセダンとしての自己主張は非常に控えめに抑えられており、ベースモデルが持つ雰囲気を色濃く残しています。メルセデス・ベンツはプレスで500Eを「Wolf in Sheep’s Clothing(羊の皮をかぶった狼)」、また「FIRE AND SILK」と評し、後者が当時の日本のカタログで、「炎の情熱と絹の優美」と紹介されました。
インテリア
W124のインテリアは、エクステリア同様に実用性を重視したデザインとなっています。ダッシュボードの左右に細く伸びるウッドパネル(廉価グレードでは省略)、またセンタークラスターとセンターコンソールにはウッドパネルがあしらわれ、先代W123の雰囲気を残していますが、丸から四角に改められたエアコンのダクト形状をはじめ、全体的に直線的でスッキリとした印象を持っています。ウッドパネルは当初、明るい色調で直線的な木目のゼブラウッドが主体でしたが、後に上級モデル用として、より深い色調で複雑な木目を持つSクラス同様のメープルウォールナットも追加されました。また最初のマイナーチェンジではドアパネルにもウッドパネルが追加されています。ウッドパネルは薄く整形され、高い質感と環境への配慮を両立させましたが、後年保管環境によっては、ひび割れの問題を抱えるケースもありました。
センタークラスターには操作系が集約され、上段にハザードや後席ヘッドレストの遠隔格納ボタンを配置、中段にセミオートエアコンであるクライメートコントロールのダイヤル操作パネル、下段の少し奥まった場所に1DINのカーステレオのヘッドユニットが収まります。センタークラスター下端の滑らかに動く格納式の灰皿から一体的になだらかに連なるセンターコンソールにはシフトレバーが配置されています。特にAT仕様車では、当時メルセデス・ベンツが特許を取得していたシフトゲートをジグザグして誤操作を防止するスタッガードゲートが採用されていました。またシフトレバーの運転席寄りにはドアミラーの電動調整機能(当初は助手席側のみ電動、後に運転席側も電動化)、シフトレバーの両脇にはパワーウィンドウ装着車ではシフトレバー両脇に前後左右のパワーウィンドウスイッチや後席のパワーウィンドウのオフスイッチが、シフトレバーと灰皿の中間部にはシートヒーターの操作パネル(装着車のみ)が集約されています。
全体的には、このレイアウトは機能性には大変優れており、各スイッチは角を落とした大型のシーソー型が採用され、走行中のブラインドタッチ時の安全性も高いものです。ただし、ヘッドユニットが奥方向にオフセットしていることは、生産年の後半から日本で普及したカーナビゲーションシステムのインストールでインダッシュタイプを選択した場合に画面格納の支障となるもので、オーナーを悩ませました。
シートは当初はW123のデザインを継承するものが採用され、縦方向に縫製を行ったファブリックシートをはじめ、耐久性を重視した本革シート、よりヘビーデューティーな需要に対応するMB-TEX、そして最上級として位置づけられていた起毛の長いベロアシートの4種類が設定されました。初回のマイナーチェンジではファブリックと本革で大幅なデザイン変更が行われ、ファブリックシートのデザインはより近代的なものに、また本革シートは、やや柔らかく、高級感を重視したものへとコンセプトを変更しています。変更されたシートのデザインは、後年の他のメルセデスでも長く継承されたこともあり、馴染みのある方も多いかもしれません。さらに同時期に設定されたスポーツラインでは、サイドサポートを強めたスポーツシートも新たに設定され、このスポーツシートには座面・背面の広い面積にチェック柄が入るなど、新しい試みも行われました。いずれもシートのサプライヤーは、ドイツレカロ社が担当したと言われています。またヤシの繊維や金属スプリングを採用しており、耐久性や乗り心地で高い評価を受けています。
インテリアはまた、多数のカラーバリエーションも設定されていました。色はブラック、ブルー、クリームベージュ、グレーなどの定番色に加え、レッドやグリーン、そしてブラジルと呼ばれた濃いブラウンの設定もありました。実際には多くの個体ではブラックやブルーが選択されていたようですが、このようなオーダーメイド感覚のインテリアの提供は、生産効率等の観点から現在の量産車では失われてしまった美点です。
さて、500E/E500のインテリアはどのように仕上げられていたのでしょうか?
基本的に500EとE500のインテリアは標準のW124の内装を継承しており、こちらも大きな差別化は行われていません。しかし最上級モデルとして、下位グレードでは省略されることもあった各種装備はすべて追加され、ウッドパネルも上級のメープルウォールナットが採用されています。またクライメートコントロールも日本仕様では、モデルライフ途中から追加されたフルオートタイプ(風量や風向も自動制御可能)が標準となりました。またハザードスイッチの列に並ぶASR(Anti-Skip Regulation=トラクションコントロール)のオフスイッチも、特別なモデルであることを主張します。
インテリアカラーの選択肢はやや狭められ、日本仕様ではブラック、ブルー、クリームベージュ、グレー、ブラジルの5色が設定されていましたが、並行輸入された個体に関しては、この限りではありません。いずれにしてもブラックが多数を占めていたようです。
シートはスポーツタイプが採用され、サイドサポート部をレザーとしたハーフレザーが標準、オプションでフルレザーが選択出来ました。実際には多くの個体でオプションのフルレザーが採用された他、後年フルレザーに張り替えられた個体も少なくないようです。ステアリングは標準より径の小さなスポーツタイプのものが採用され、下部ステアリングスポークの開き方が少し狭まっていることから、視覚的にも識別が可能です。また運転席に座れば、280km/hスケールとされたVDO製のスピードメーターが、このモデルが特別な動力性能を持っていることを主張します。
リアシートの定員は2人に減少し、中央席の代わりには、ウッドパネルをあしらったセンターコンソールの収納が追加されています。これはセンタートンネルの拡大に伴い、中央席への着座が難しいと判断されたことに伴います。
また生産末期には、限定車としてE500リミテッドが販売されました。E500リミテッドではウッドパネルがより色調の暗いブラックのバーズアイとなり、またシートはすべて本革が標準に、そしてシート表皮には独特なグラデーションが入り、最終モデルに相応しい特別なインテリアを実現しました。
パワートレイン
登場時のW124には直列6気筒と直列4気筒のガソリンエンジン、また直列6気筒、5気筒、4気筒のディーゼルエンジンが採用され、要人を運ぶ高級車から、経済性が重視されるタクシー等、幅広い需要に対応していました。
しかし、500E/E500には、当時最新だったM119型のV型8気筒5.0L自然吸気エンジンが採用されました。このエンジンは、それまで製造されていたM117を置き換えるもので、500Eに先行してR129(SLクラス)に搭載され、後にW140(Sクラス)でも採用されたものです。
M119型エンジンのブロックにはアルミ合金が採用され、大排気量エンジンながら、重量の軽減は最低限に抑えられています。実際の車重は他の装備変更もあり、例えばM103型の直列6気筒エンジンを搭載していた標準モデルである300Eの1,470kgに対して、500Eは1,700kgと200kg以上増加していますが、エンジンの全長が短くなり、相対的にフロントミッドシップに近いレイアウトを得たため、ハンドリングは直列6気筒モデルよりも向上していると評価されました。
登場時の最高出力は5,700回転で330PS、最大トルクは3,900回転で50kgmを発揮しました。1993年モデルからは環境対策等で最高出力が325PS、最大トルクが49kgmへと僅かに落とされますが、いずれにしても大排気量自然吸気ならではの滑らかな出力特性と強力なトルク感は車重に対して十分過ぎるもので、100km/hまでの6.5秒という加速力もさることながら、そこから上も加速の勢いは衰えることなく、(日本で試すことは容易ではないものの)メーターの針は簡単に200km/hを超えてしまいます。0→400mでは14.8秒をマークします。
変速機は標準のW124で広く採用されていた、メルセデス・ベンツ内製の機械式4ATが採用されています。通常は2速で発進しますが、発進前にシフトダウン操作を行うことで任意に1速発進モードを選択することも可能です。当時W124では、クーペモデル(C124)で電子制御式の5ATの採用も試みられ、これは1990年代半ば以降にメルセデス・ベンツの変速機の主流の位置に移行していったため、当時としても枯れた技術になりつつあった機械式4ATですが、ロックアップ機構等を持たないものの、多少のシフトショックを厭わない制御は独特なダイレクト感があり、そのフィーリングは後年でも評価の高いものです。
最高速度はリミッターにより250km/hに制限されますが、前述のように中間加速を重視した設定ということもあり、この時点でのエンジン回転数は6,000回転を上回っています。そのため仮にリミッターを外しても、その最高速度は260km/h超に留まります。しかしこの動力性能と出力特性は、2010年代のアウトバーンをハイペースで巡航するとしても、十分に実戦的なものです。
足回り
W124のプラットフォームは、W201に引き続き、当時のメルセデス・ベンツとしては新世代となる、リアにマルチリンクサスペンションを採用した新世代のものが採用されています。基本設計はW201のものを継承しており、サスペンションの煮詰め方については、モデルライフ中試行錯誤が行われたと言われていますが、500Eでは前例のない大出力エンジンを搭載するため、大幅な設計変更が行われました。
まずフロントセクションはR129のものを多数流用、その変更はサスペンションからバルクヘッドまで多岐に及び、センタートンネルも拡大されました。当時まだ独立チューナーだったAMG(ドイツ語読みでアー・エム・ゲー、後に英語圏ではエー・エム・ジーに呼称を統一)がV型8気筒エンジンをW124に搭載した事例はあったものの、W124は元々はV型8気筒エンジンの搭載を考慮した設計が行われておらず、量産車としては設計変更は必然でした。
またリア周辺のボディも大幅に強化され、リアサスペンションでは姿勢変化を抑えるため、ステーションワゴンに採用されていたレベライザー(これはシトロエンのハイドロニューマチックの特許を用いたものです)が流用されています。これにより、500Eは加速時にノーマルモデルとは異なり、フラットな姿勢を維持したまま、強烈な加速を実現しています。これは決して足回りが硬くなかった標準のW124が、細長いボディでリアを沈めるように加速していくのとは全く異なる感覚で、この特性の違いはドライバーのみならず、同乗者にとっても容易に区別出来るほどのものです。
動力性能の向上と重量増加に対応するべく、ブレーキのローター径はフロントで300mm、リアで275mmに拡大され、マイナーチェンジにより更に325mmと300mmに拡大されました。ブレーキキャリパーは300mmのものにはブレンボ製のものが、325mmのものにはATE製のものが採用されています。これにあわせてホイールサイズは16インチに拡大され、ホイールのデザインも新しくなりました。この新デザインは、後に標準のW124をはじめ、各メルセデス・ベンツに採用されていくことになります。
主な装備とオプション
上でも触れてきたように、500E/E500はW124のフラッグシップとして、基本的な装備はフル装備となっていました。ただし並行輸入された個体では、ドイツでは選択可能だったクライメートコントロールがダイヤル式のセミオートタイプとなっているケースがあります。
ステレオのヘッドユニットは500Eではベッカー製が、E500ではテクニクス(松下電器)製が採用されています。オプションでトランクに設置されるCDチェンジャーの設定があり、500Eではモデルイヤーによってベッカー製かテクニクス製のものが、E500ではテクニクス製のものが採用されていました。スピーカーはダッシュボード、リアドア、リアシェルフに左右2個ずつ、合計6個が標準で搭載されていたほか、オプションでプレミアムオーディオの設定もありました。しかし限られたダッシュボードのスペースにメインスピーカーを搭載していたことから、いずれも標準では今日の水準からするとあまり音質の良いものではなく、後年、音質を求めるオーナーは改善に取り組むことになりました。(後年のモデルでは、ドアに低音部、ダッシュボードにツイーターを搭載することで、音質の改善がはかられています)
インテリアの項でも触れたとおり、オプション扱いだったフルレザーシートは多くの個体で選択されていましたが、他に人気だったオプションとしては電動サンルーフがありました。当時は日本車を含めてサンルーフの設定は多く、その流行を反映したものでした。
総括
500E/E500の細部に目を向ければ、標準モデルであるW124の美点を基本的には損なわず、加えて年数が経って振り返っても、ハイパフォーマンスモデルとして丁寧に作り込まれていることを、ごく表層的な部分からでも容易に知ることができます。
2017年現在、W124が位置していたEセグメントのボディサイズは世界的な需要の変化から大型化が進み、2016年登場のEクラス(W213)のボディサイズは全長4,930mm、全幅1,850mmに達しました。また環境対策やメーカーの自主的な努力以外に、世界各国で具体的な燃費データやCO2排出量の数値が基準が行政レベルで設けられたことから、エンジンは気筒数の削減、排気量の抑制、そして効率重視のための過給化が進められ、自動車開発においては制約事項が多くなっています。メルセデス・ベンツのAMGをはじめ、もっとも強力なハイパフォーマンスモデルではV型8気筒エンジンは健在ですが、排気量の抑制や過給化の波から逃れることは出来ず、7速化された多段ATと相まって、カタログスペックでも実際の速さでも、もはや一世代まえのスーパーカーを凌駕するようなパフォーマンスを獲得するようになりました。
500E/E500は、最新のハイパフォーマンスモデルの持つスペックには最早遠く及びません。しかし比較的取り回しが良く、決して重すぎない車体を、大排気量の自然吸気エンジンと1段あたりが受け持つレンジの長い変速機で加速させていくという基本構成、そして独特のフィーリングは、後年のハイパフォーマンスモデルでは得難いものとなっており、そして今後も同様のモデルが生まれることは、期待できません。
2017年はW124は最終モデルの生産終了から20周年の節目となりました。メルセデス・ベンツは古くより、生産中止から時間の経ったモデルでも部品の新品供給を継続することで知られてきましたが、近年は経営面から欠品状態になるケースも増え、部品代も高額となるなど、所有を取り巻く環境は厳しくなっています。またASRをはじめとした500E/E500特有の電子制御事情はもちろん、W124自体が環境対策、リサイクルを視野に入れて開発されていたため、より年式の古いW123やW114に対して不利な側面があることも否めません。
しかし500E/E500はオーナーの情熱に支えながら、今後も生き残っていくでしょう。そして、新たに500E/E500に興味を抱き、所有を夢見る方もまた、増えていくのではないでしょうか。なぜなら過去に名声を博した多くの名車がそうであったように、500E/E500もまた、他のモデルでは替えが効かない唯一無二の存在なのだからです。
500E/E500のスペック表
メルセデス・ベンツ 500Eのサイズやエンジン仕様などスペックは以下をご確認ください。+ボタンで詳細が表示されます。
500Eのスペックは1992年モデルに、E500のスペックは1994年モデルに準じます。500Eの1993年モデルのスペックは基本的にE500に準じます。また参考資料として、W124の代表的なモデルのひとつ、300Eの1992年モデルのスペックも掲載しています。
車名 | メルセデス・ベンツ ミディアムクラス / Eクラス Mercedes-Benz Medium Class / E Class |
||
---|---|---|---|
サンプルグレード | 500E (MY1992) |
E500 (MY1994) |
300E (MY1992) |
新車時日本価格(¥) | 15,500,000 | 13,000,000 | 7,330,000 |
ハンドル | 左 | 右 / 左 | |
ドア数 | 5 | ||
乗車定員 | 4 | 5 | |
全長(mm) | 4,755 | 4,740 | |
ホイールベース(mm) | 2,800 | ||
全幅(mm) | 1,795 | 1,740 | |
全高(mm) | 1,410 | 1,445 | |
トレッド前/後(mm) | 1,540 / 1,530 | 1,495 / 1,490 | |
車両重量(kg) | 1,700 | 1,470 | |
エンジン搭載位置 | フロント縦置き | ||
駆動輪 | 後 | ||
エンジン種類 | V型8気筒DOHC | 直列6気筒SOHC | |
32バルブ | 12バルブ | ||
燃料 | 無鉛ハイオク | ||
吸気 | 自然吸気 | ||
燃料噴射 | LHジェトロニック | KEジェトロニック | |
排気量(cc) | 4,973 | 2,960 | |
内径 x 行径(mm) | 96.5 x 85.0 | 88.5 x 80.2 | |
圧縮比 | 10.0 | 9.2 | |
最高出力(kW/rpm) | 243/5,700 | 239/5,600 | 136/5,700 |
最大トルク(Nm/rpm) | 490/3,900 | 481/3,900 | 260/4,400 |
変速機 | AT | ||
変速機形式 | トルクコンバーター・機械式 | ||
段数 | 4 | ||
最高速度(km/h) | 250 | 228 | |
0-100km/h加速(秒) | 6.5 | 9.1 | |
燃費(km/L) | |||
10・15モード | 6.2 | 6.6 | |
欧州複合モード | 7.4 | 9.1 | |
燃料タンク容量(L) | 90 | 70 | |
サスペンション前 | マクファーソン・ストラット | ||
サスペンション後 | マルチリンク | ||
タイヤ前 | 225/55R16 | 195/65 R15 | |
タイヤ後 | 225/55R16 | 195/65 R15 | |
ブレーキ前 | ベンチレーテッドディスク | ||
ブレーキ後 | ベンチレーテッドディスク | ディスク | |
最小回転半径(m) | 5.5 | 5.2 | |
特記事項 | 1kWは約1.34hp(英馬力)、約1.36ps(仏馬力)です 一部推定値、非公式情報を含んでいる場合があります |
500E/E500の中古車の現状
2017年現在、500EとE500の日本国内での中古車価格は、車両本体で200万円前後のものから、1,000万円に迫るものまで、かなりの振れ幅があります。これは走行距離や車両の状態、補修歴、販売店の戦略、販売される地域事情などによって左右されています。いずれにしても生産終了から長い時間が経っていることもあり、当時のメルセデス・ベンツの設計思想から交換部品が多く、交換サイクルも現在のドイツ車に比べると短いため、異なる中古車店で販売されている500E/E500を比較して、車両価格が高い方が手がかからずに済むという図式は成り立ちにくくなっています。そのため500E/E500の所有を想定した場合は、購入前も購入後も、情報収集を怠らないことが不可欠といえます。
生産終了からの年数の経過は、上述したとおり、生産当時や現在のメルセデス・ベンツ側の事情から部品交換の負担が大きいのはもちろんですが、特に走行に支障がないインテリアの部品の欠品は少なくなく、新品が手にはいらないことから、シートの痛みなどへの対応に苦慮するケースは少なくありません。オリジナルの維持は、無論これからオーナーになる方に限らず、現在500E/E500を所有中のオーナーにとっても非常に重要な問題です。
あるいは部品事情や500E/E500のハイパフォーマンスモデルという素性から、オリジナルの維持にこだわらず、思い切ってカスタマイズするというのも、もうひとつの選択肢となります。カスタマイズは、純正で弱かった部分の対策にも繋がります。しかし素材にこだわった高額なカスタマイズにより完成度の高いコンプリートカーとして仕上げられる個体が存在する一方で、思うようにカスタマイズが進まず、中途半端な状態でオーナーが断念したり、あるいは安易なカスタマイズを加えたまま手放された個体は、中古車として手に入れる上では価格面はともかく、新しいオーナーが満足する上では不利な条件が揃っています。特に少数派のインテリアカラーを選ぼうとした場合、E500リミテッドなどの生産台数の少なかった仕様を選ぼうとした場合は、中古車を探す上でも、手に入れて維持していく上でも、難しい局面が増えていきます。
もちろんハイパフォーマンスモデルでは、まずは機関系がしっかり仕上げられていれることが、安全にスポーツドライビングを楽しむ上でもっとも大切です。しかし500E/E500は単なるスポーツモデルではなく、標準のW124同様に優れた実用車として、大人4人が長距離・長時間を過ごすモデルです。だからこそ、インテリアもしっかりこだわりたいポイントと言えるでしょう。
500E/E500の内装修理・カスタム事例
今回は500E/E500のインテリアのリペアやカスタムに対応する、大阪府堺市のカーメイクアートプロの取り組みをとりあげます。
同社は往年のロールス・ロイスなどの高級車から、ホンダ S660といった最新の国産スポーツなど、ジャンルを問わずあらゆるモデルの内装の貼り替え実績がありますが、中でも500E/E500をはじめとしたW124の内装貼り替えは注力している分野で、オリジナルの雰囲気・素材感の忠実な再現、オリジナルの見た目を保ちながら耐久性の高い素材の選択、オーナーの好みによる全く新しい内装づくりなど、多彩な需要に対応しています。
また2016年には、毎年浜名湖で行われている「FIRE & SILK 浜名湖オフ」でデモカーの展示を行うなど、オーナーへ向けて積極的な情報発信も行っています。
E500リミテッドの内装を完全再現
E500リミテッドは、そのグラデーションをまとった革の劣化がオーナーにとっては大きな問題となってきました。カーメイクアートプロではドイツのファクトリーとタイアップして、オリジナルに近い革素材に、新車時のグラデーションをそのまま再現した製品開発に成功しました。カラーバリエーションは当時日本に正規輸入されていたグレーをはじめ、ドイツ本国で選択可能だったレッド、グリーン、ブルーにも対応しています。
貼り替えはシート表皮はもちろん、ドア内張り、そしてシフトノブやステアリングにも対応可能です(シフトノブは革巻きのものをリペア・塗装にて仕上げられます)。これによりE500リミテッドの内装を新車当時への復元できるのはもちろん、リミテッド以外の500E/E500の内装をリミテッド風にカスタムしたり、またレカロCSE等の社外シートにこの革を張って、雰囲気を損なわずにカスタムを行うことも可能です。
純正相当・カスタム用の本革素材を多数用意
リミテッド仕様ではない通常の本革も、あらゆる需要に対応できる体制を整えています。
純正相当の革は新車当時のW124に設定されていた全7色を用意、シートのサイドサポートが痛んでいた場合などのリペアに対応します。また同じ素材で新車設定のなかった色にも対応。オリジナルの素材感を保ったまま、新しいインテリアを作り上げることもできます。
他にNAPPA、CATANIA、DESIGNOという3種類の革素材やアルカンターラも用意。いずれも多彩なカラーバリエーションを設定しています。こちらは、耐久性や質感をオリジナルよりも上げたい場合、変化を加えたい場合に有意義な選択肢となります。
E500の内装・シート張替え前後比較動画
ベロアなど革以外の内装にも対応
高級車で本革シートが主流になる以前の起毛が長いベロアシートは、その長い起毛による上質な雰囲気や身体の高いホールド性などから、1980年代までは最上級の内装素材として位置づけられていました。一方でベロアはその素材の性質から、取り扱いによっては痛みやすい一面も持っています。
カーメイクアートプロでは経年や汚れなどで傷んだベロアの張り替えも、当時の新車同等の素材を確保することで可能としました。
シートリペア・カスタムの流れ
シートの張り替えを行う場合、カーメイクアートプロでは車両ごと入庫し、シートの脱着作業を含めた作業を一貫して行うことが可能です。
シートを取り外した際には普段手が届かない内装の清掃も行っています。またシートのクッション材に傷みがある場合は、表皮張り替えの際に一緒に修繕や交換を行うことで、座り心地も新品同様に復元することが可能です。
ウッドパネルのリペアも可能
クラックに悩まされるウッドパネルのリペアにも対応、新車時と同等の素材も用意しています。
メルセデス・ベンツからもセンターコンソールのパーツが純正供給されていますが、もっともボタンの多い構成にあわせてあり、たとえば後席ヘッドレストの遠隔格納機能を持たないステーションワゴンでは、そのボタンの部分を樹脂のブランクパネルで埋める必要があり、雰囲気が損なわれてしまいます。一方素材ベースで再製作する場合、新車時と同じ雰囲気を保つことが可能です。
こちらもE500リミテッド用のブラックバーズアイを含む、すべての純正相当、そして設定のなかったものも選択できます。
500E/E500内装カスタム詳細ギャラリー
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※本記事は2017年3月17日時点の情報を元に作成しております。最新の情報に関しては直接ご連絡にてご確認ください。また、記載情報の誤りがある場合はお知らせください。