2017.05.27

魅惑の3ドアクーペを紹介。2010年代の3ドアハッチバッククーペを解説・比較。

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3ドアハッチバックは、かつて1980年代までは欧州、特に西ドイツではCセグメント以下の乗用車の顔とも言うべき存在でした。当時の西ドイツではCセグメントやBセグメントはパーソナルカーとして選択される機会が多く、後席の乗降性を犠牲にしてもボディ剛性やデザイン性で有利な3ドアが好まれていたのです。しかし1990年代に入ると、冷戦の終結に伴う社会情勢の変化や安全基準厳格化に伴う各セグメントの大型化、技術の向上に伴い5ドアでも一定の性能が保てるようになったことなどから、Cセグメントでも後席の使い勝手が高い5ドアモデルが主流となりました。2000年代以降は日産 パルサーなどのように、ラインアップから3ドアハッチバックを廃止する事例も見られるようになりました。

かつてCセグメント以下の3ドアハッチバックは、乗用車の顔とも言うべき存在だった

かつてCセグメント以下の3ドアハッチバックは、乗用車の顔とも言うべき存在だった

2000年代以降は5ドアが主流となり、3ドアハッチバックを廃止するモデルが増加した

2000年代以降は5ドアが主流となり、3ドアハッチバックを廃止するモデルが増加

一方Cセグメントのハッチバックで5ドアが主流になったことで、生き残った3ドアの趣味性は自ずと高まることになりました。遡れば既に1970年代にはフォルクスワーゲン シロッコやフォード カプリ IIのように、Cセグメントの2ドアクーペの後継モデルとして3ドアハッチバックが選択され、いわゆる「3ドアクーペ」として、その役割を引き継ぐことがしばしば見られていました。これらの事例はあくまで独立したスペシャリティカーに限られていましたが、1990年代以降になると独立モデルではなく長く続いてきた主力モデルのバリエーションとして、スペシャリティ寄りの3ドアクーペがラインアップされるようになります。この傾向は特に2000年代に顕著になりましたが、2010年代後半になるとメーカーの選択と集中により徐々にフェードアウトするようになりました。3ドアクーペは2020年代には新車では手に入らないジャンルの自動車になってしまう可能性も否めません。

初代 フォルクスワーゲン シロッコ(1977–1981)

初代 フォルクスワーゲン シロッコ(1977–1981)

フォード カプリ MkII(1974–78)

フォード カプリ MkII(1974–78)

この記事ではそんな3ドアクーペのうち、おそらく1990年代以降ではもっともバリエーションが豊富で勢いがあった2010年頃に販売されていたモデルを順に列挙してみました。2017年現在も継続して購入可能なモデルもあれば、既に中古でしか手に入らないモデルもありますが、いずれも実用性とスペシャリティ性を併せ持ち、パーソナルカーとして贅沢かつ魅力的に仕上げられています。そんな近代3ドアクーペの世界にご案内しましょう。

フォード フォーカス Mk2(2004-2010)

フォード フォーカス Mk2(2004-2010)

フォード フォーカス Mk2(2004-2010)

エスコートの後継として1998年に登場したフォーカスは、それまでフォルクスワーゲン ゴルフの牙城であった欧州Cセグメント市場に激震を走らせたゲームチェンジャーとなりました。そんなフォーカスの2代目となるフォーカス Mk2は、内外装共にともすればエキセントリック過ぎるくらいだったMk1に対して落ち着いた印象にまとめられましたが、基本的にはキープコンセプトでした。しかしその中で3ドアハッチバックは明確にCピラーを強く傾斜させ、同時にリアガラスも大きく寝かされたことで、ファストバッククーペ的な雰囲気を強くしており、巧みなデザイン処理でCピラーを寝かせるように見せていたMk1とは異なるコンセプトのモデルとして仕上がりました。

フォード フォーカス Mk2(2004-2010)リア

フォード フォーカス Mk2(2004-2010)リア

フォード フォーカス Mk2(2004-2010)インテリア

フォード フォーカス Mk2(2004-2010)インテリア

RSやSTなどスポーツモデルが設定されたことからホットハッチとしてのイメージも強いものの、後席サイドウィンドウ後端の処理に何処かエスコートの面影を感じさせるなど何処かクラシカルな魅力も持ったフォーカス Mk2。3ドアクーペはペットネームこそありませんでしたが、もしかすると2002年に廃止されたプーマ(Puma)やクーガー(Couger)の担っていた役割をも引き継がんとする存在だったのかもしれません。残念ながら2011年に登場したMk3では3ドアハッチバックは廃止されています。

 

ボクスホール/オペル アストラJ GTC(2010-)

オペル アストラJ GTC(2010-)

オペル アストラJ GTC(2010-)

ボクスホールの主力車種として世に生まれ、1991年にはオペルの伝統的な車名であるカデットの名前を上書きして両ブランドの統一Cセグメントモデルとなったアストラ。歴代モデルでは3ドア/5ドアを問わず比較的ファストバック的なCピラーの傾斜角の大きなデザインが採用される事例が多かったモデルですが、2004年に登場したアストラHの3ドアモデルではじめてグランツールコンパクトこと「GTC」という名前が採用され、2010年のアストラJで3ドアクーペとしての素養を強めました。しかし、さらにその後継モデルであるアストラKでは3ドアが設定されず、GTCはアストラの名前が外れた独立モデルとしての道を歩むことになるのです。

ボクスホール GTC リアスタイル

ボクスホール GTC リアスタイル

ボクスホール GTC インテリア

ボクスホール GTC インテリア

アストラ GTC(現GTC)の中でもボクスホールではVXR、オペルではOPCと呼ばれる最強仕様は特に知名度が高く、イメージリーダー的なグレードですが、グレードを問わずトルクステアを抑える変形ストラットのフロントサスペンションが採用されるなど、コンパクトなグランドツアラーというコンセプトを体現した贅沢な3ドアクーペです。

オペル GTC/ボクスホール GTC(旧アストラGTC)を解説、並行輸入車の価格情報も掲載。

GTCはオペルとボクスホールの両ブランドがヨーロッパで販売しているCセグメントの3ドアクーペです。 この記事では左ハンドルのオペル GTCと、イギリス仕様右ハンドルのボクスホール GTCについて解説...

 

ルノー メガーヌIII クーペ(2008-2016)

ルノー メガーヌIII クーペ(2008-2016)

ルノー メガーヌIII クーペ(2008-2016)

3ドアクーペの中ではメガーヌは異質な存在でしょう。ルノー 4でハッチバックを世に生み出したルノーは、他社に対して早期から5ドアハッチバックをラインアップの主軸と位置づけており、スペシャリティはフエゴの事例を除けば独立したトランクを持つ2ドアクーペを基本としてきました。メガーヌもその例に漏れず、初代はハッチバックでも違和感のないシルエットのノッチバックの2ドアクーペをラインアップ、2代目では凝った造詣の3ドアを展開して一旦クーペは消滅し(メタルトップのカブリオレがこれを代替しました)、遂に3代目で”クーペ”を名乗る3ドアハッチバックがラインアップされました。

ルノー メガーヌIII クーペ(2008-2016)リア

ルノー メガーヌIII クーペ(2008-2016)リア

ルノー メガーヌIII クーペ(2008-2016)インテリア

ルノー メガーヌIII クーペ(2008-2016)インテリア

日本にはニュルFF最速競争の代名詞的存在だったルノースポール仕様が正規輸入されたことで、3ドア=RSというイメージが強かったメガーヌIII クーペですが、フランス本国ではエレガントな雰囲気を持つパーソナルクーペとして多彩に展開されており、3ドアクーペというコンセプトに純化した点ではアストラH GTCに追従したため、両者は頻繁にライバルとして比較されることになりました。

 

セアト レオン SC Type 5F(2012-)

セアト レオン SC Type 5F(2012-)

セアト レオン SC Type 5F(2012-)

メガーヌに引けを取らず特筆すべき存在としてはセアト レオンのSCが挙げられます。元々セアトの主力モデルであったトレドの5ドアハッチバック仕様がレオンを名乗り独立したという経緯から、レオンに元来3ドアの設定はなく、スポーツクーペを意味するSCという3ドアクーペが設定されたのはタイプ5Fと呼ばれる3代目が最初でした。ライバル勢が半ば必然的に3ドアクーペというコンセプトに帰結したのに対して、3ドアクーペというコンセプトありきで作られたレオン SCは、出力によって異なるリアサスペンションの作り分けや、4WDの設定などの点で兄弟車であるゴルフと似ているにも関わらず、3ドアとは異なるパーソナルクーペとしてのキャラクターが色濃いモデルとして仕上がっています。

セアト レオン SC Type 5F(2012-)リア

セアト レオン SC Type 5F(2012-)リア

セアト レオン SC Type 5F(2012-)インテリア

セアト レオン SC Type 5F(2012-)インテリア

VWの潤沢な資金力があるからこそ実現したコンセプト・作り分けですが、他社の動向を踏まえると次世代でも3ドアクーペが設定されるかは未知数であり、また2010年代後半においても新車購入可能という点で、ボクスホール/オペルのGTCと並んで希少な存在となってます。

 

VW シロッコ III(2008-2017)

フォルクスワーゲン シロッコ

フォルクスワーゲン シロッコ

元祖3ドアクーペと呼んでも差し支えないシロッコは1990年代に一旦その歴史を閉じますが、2008年に復活、2010年ごろのCセグメント3ドアクーペ市場の盛り上がりを象徴する存在になりました。ゴルフに対して敢えて4モーション(4WD)が設定されないなど、単なるパフォーマンス追求とは異なるベクトルのコンセプトがもたらす魅力は、グループ内で後発で設計が大幅に新しいレオン SCの登場後も色褪せることがありません。

フォルクスワーゲン シロッコ リア

フォルクスワーゲン シロッコ リア

フォルクスワーゲン シロッコ インテリア

フォルクスワーゲン シロッコ インテリア

日本への輸入は2014年に途絶えた3代目シロッコですが、ドイツ本国では2017年まで製造・販売され、約9年間に渡ってカタログに掲載され続けたモデルとなりました。これは以前よりもモデルライフが短くなっている2000年代以降のドイツ車の中では稀有な例です

 

5モデルの違い・選び方

今回紹介した各モデルはいずれも一般的な3ドアハッチバック車と比べると、クーペを名乗るに相応しい雰囲気を持っており、その魅力は甲乙つけ難いものがあります。ただしフォーカス Mk2は2010年に生産終了となり2017年時点では購入手段が中古に限られます。新車、あるいは高年式の中古車であることを優先して選ぶ場合はフォーカス Mk2とそれ以外の間で大きな差異が発生してしまう点には留意が必要です。

エクステリアに注目すると、専用モデルとして開発されたシロッコが特に目を引きます。他のモデルは5ドアモデルとの共通性が見える中で、シロッコのロー&ワイドなルックスは唯一無二の雰囲気を持ちます。一方インテリアに注目すると、唯一設計が2010年代に入って登場したレオン SCのデザインは、他のモデルに比べるとドライバーオリエンテッドかつ先進的な印象を与えます。

パワートレインも基本的には登場時期を反映しており、登場時期の新しいモデルほどダウンサイズの直噴ガソリンターボエンジンの採用事例が増えてくる等の違いがあります。裏を返せばポート噴射のガソリンターボエンジンも選択できるGTCは、2017年現在は貴重な存在と見ることもできます。

足回りはフロントサスペンションにフォード フォーカス Mk2、ボクスホール/オペル GTC(アストラ GTC)、ルノー メガーヌ クーペの3モデルでトルクステアを抑える変形ストラットの設定がある点がポイントです。特にGTCはハイパフォーマンスモデルに限らず全てのグレードで変形ストラットを採用している部分が特筆されます。一方リアサスペンションはフォード フォーカス Mk2とVW シロッコでマルチリンクが、ルノー メガーヌ クーペではトーションビームが、ボクスホール/オペル GTCではラテラルロッドを追加したトーションビームが採用されています。またセアト レオン SCはリアサスペンションの構造がパワートレインと紐づけられており、ハイパフォーマンスなモデルや4WDモデルではマルチリンクが、ベーシックなモデルではトーションビームという編成です。サスペンションの構造は必ずしも性能を裏打ちするものとは限りませんが、各モデルに込められたコンセプトが設計に反映されている部分としては注目してみると面白いかもしれません。

クーペの評価は実用性等のみでは測れないところがあるので、好みを優先すれば間違いがない……という結論では身も蓋もないかもしれませんが、派生車種から独立車種へと変わった経緯やサスペンション構成等のこだわりという点では、特にボクスホール/オペル GTCは特に趣味性の高い1台と言えるかもしれません。

※本記事は2017年5月27日時点の情報を元に作成しております。最新の情報に関しては直接ご連絡にてご確認ください。また、記載情報の誤りがある場合はお知らせください。

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