使い勝手の良いハッチバックボディと、スポーツカー顔負けのパワフルなエンジンを両立させたホットハッチ。1970年代末にヨーロッパで誕生したホットハッチは、2010年代の今も自動車好きの心を捉え続けています。
特に2015年はホットハッチの当たり年で、欧州や日本で、ロングセラーモデルから更に洗練された仕様が追加されたり、復活が待ち望まれたモデルが発売されたりしました。
そこで今回はホットハッチの中から、2016年に特に”ホット”になりそうなおすすめホットハッチを自動車販売に携わるプロの視点で10台選考しました。ひと味違うホットハッチ10選を、どうぞお楽しみください。
この記事の目次
選考基準
この記事でのホットハッチは、以下のルールを基本に選びました。
・1つの自動車会社(グループ)から選べるのは、選りすぐりの1台だけ
・選択範囲は全ての新車、例えば日本専売の日本車も、欧州専売の欧州車も
・3ペダルのマニュアルトランスミッションの設定があること
・その車種ならではの、他にはない個性や魅力があること
・順位は自動車の性能の優劣ではなく、注目度から選ぶこと
※それぞれの選んだモデルには、選考理由も併記しています。
人気ホットハッチベスト10
注目度第10位 スズキ アルト ワークス
長らく軽自動車のベーシックモデルの代名詞だったスズキ アルトは、2014年末に登場した8代目で大きく注目を集めることになりました。和田智氏によるものだと言われる温故知新なデザイン、新開発の軽量高剛性のプラットフォーム、欧州での自動車開発の経験をフィードバックした足回り、ターボRSなどの一部グレードで設定された2ペダルMTなどは、これまで軽自動車を選択肢に入れていなかった欧州車ファンや自動車評論家からも、高い評価を受けています。
2015年12月に満を持して発表されたアルト ワークスは、これまでのフラッグシップだったアルト ターボRSを更にブラッシュアップ、パワートレインや足回りのチューニングを煮詰め、レカロシートや待望の3ペダルMTが搭載されています。ホンダ S660やダイハツ コペンなどの専用設計の軽スポーツカーにも比肩するパフォーマンスが期待されるアルトワークスは、2016年のホットハッチの登竜門になりそうです。
選考理由
スズキは長く日欧でスイフト スポーツを販売、ホットハッチの代名詞のひとつとして定着させてきました。そのためホットハッチの代表車種としてはスイフト スポーツを挙げた方が王道かもしれません。
しかしアルトで採用された新開発のプラットフォームは、今後のスズキの自動車開発を示唆するものとなっています。次世代のスイフト スポーツへの期待も込めつつ、今回は日本専売の軽自動車ながら、アルト ワークスを選びました。
関連情報
参考価格:150.9万円(2WD 5MT車)
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アルト ワークス(スズキ公式サイト)
スズキ アルト ワークス 非公式試乗動画(約33分)
注目度第9位 ボクスホール/オペル アダムS
ボクスホール/オペル アダムSは、オペル創業者のアダムの名前を冠したAセグメントのコンパクトモデルです。オペルの撤退後に発売されたので日本には導入されていませんが、そのネーミングの気合いの入り方からか、他のモデルに比べて注目度は比較的高めです。
最速モデルのアダムSは150馬力を発揮する1.4Lのターボエンジンを搭載。6MTとの組み合わせで、この小さなモデルを200km/h以上まで引っ張ることが出来ます。
選考理由
昨今、欧州のAセグメント市場では低価格で経済性の高いモデルが充実し、例えばフォルクスワーゲン up!に、かつてのルポGTIのようなモデルが追加されるのは、残念ながらあまり期待出来ない状況です。そんな中で、アダムSのような小型で高出力・高性能なモデルは、後述のアバルト 500シリーズ並んでと希少な存在となっています。
ボクスホール/オペルのホットハッチといえば、より上位のコルサVXRやアストラVXRも見逃せません。これらの硬派なモデルを選ぶか、アダムSを選ぶかは悩みどころでしたが、今回は少なくなった小型で高性能というコンセプトを紹介したいということから、アダムSを選びました。
関連情報
国内乗り出し価格:385万円(2WD 5MT車)※12月31日時点の為替換算額
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ボクスホール/オペル アダムS(YMワークス)
注目度第8位 アバルト 695 ビポスト
2007年以来のロングヒットを続けているフィアット 500。翌年にはハイパフォーマンスモデルのアバルト 500も登場、フィアット傘下に入ってからはレーシングカー開発に注力して、市販車では影の薄い存在になっていたアバルトの復活を印象づけました。
アバルト 695 ビポストは、アバルト 500のハイエンドモデルとして2015年に追加されました。695という名前は1960年代の名車、アバルト 695に由来します。新生500では、これまでもフェラーリやマセラティの名前を冠した限定車として695は何度か販売されてきましたが、695 ビポストは満を持して量産モデルとしての投入となりました。1.4Lのターボエンジンの出力はシリーズ最強の190馬力に到達、組み合わせられる変速機は通常の5MTに加えて、シンクロなしドグリンクの5MTが設定されたことでも話題を呼びました。
選考理由
アバルトには695よりもマイルドなアバルト 500やアバルト 595が設定されています。695に比べて価格は手頃で、またパワーを使い切るという観点では、500や595の方が楽しめる場合も多いかもしれません。しかし市販モデルとしてドグリンクトランスミッションを搭載した仕様を設定するなど、695 ビポストは、やはり今注目しなければいけないモデルのひとつだと言えます。
また今回は限定車ではないとはいえ、695 ビポストの生産能力は限られており、実際に日本に正規輸入されるドグリンクトランスミッション搭載の”フルスペック仕様”は、割当台数分が既に完売したとも伝えられています。通常モデルでも2人乗りなど、成り立ちの特殊さからいつ生産中止になるとも分からないことを踏まえて、ここではパワフルで高価な695 ビポストを選びました。
関連情報
参考価格:599.4万円(5MT車)
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アバルト 695 ビポスト(公式サイト)
清水和夫氏による695ビポストのサーキットインプレ(約4分)
注目度第7位 プジョー 208GTi
プジョー 208は、2012年に登場したプジョーのBセグメントハッチバックモデルです。208は先代の207に対してボディをダウンサイズして全長が4mを切ったことや、楕円で小径のステアリングと、ステアリングの上から覗きこむメーター配置などが話題になりました。
最上級モデルである208GTiの心臓部は、PSAプジョーシトロエンとBMWが共同開発した直列4気筒1.6L直噴ターボエンジンを搭載、その出力は200馬力まで引き上げられています。変速機は6MTが組み合わせられます。
選考理由
PSAプジョーシトロエンからは、他にも同じパワートレインを積むシトロエン DS3がホットハッチとして販売されています。WRCでの活躍も華々しいDS3には、特別限定モデルのレーシングが販売されたことも記憶に新しいですが、現在新車で販売されているモデル同士ならば、パフォーマンスは208GTiが上回ります。
また、プジョーは1983年に発売した205GTiで、ホットハッチの歴史の一翼を担ってきました。205GTiの登場から30年を迎えるにあたり、プジョーは208GTiを、205GTiへのオマージュが強く込められたモデルとして開発しました。そこでこの記事では、208GTiを選びました。
関連情報
参考価格:322万円
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プジョー 208 GTi (公式サイト)
プジョー 208 (公式サイト)
注目度第6位 マツダ デミオ15MB
2014年から販売されている4代目のマツダ デミオに、2015年秋、ひっそりとホットハッチが加わりました。それがこの15MBです。これまで1.3Lのガソリンと1.5Lのディーゼルターボしかなかったデミオですが、15MBでは輸出仕様に準じる1.5Lのガソリンが設定されていて、燃料も国産車には珍しくプレミアムガソリン専用となっています。
デミオ 15MBの出力は115馬力に留まりますが、評判の良い6段変速のSKYACTIVE-MTとの組み合わせと、僅か1010kgという軽量な車体のおかげで、現在販売されているデミオの中では恐らく最も走りを楽しめる1台ではないでしょうか。また簡素な内外装や構成、低価格は、購入後に自分でカスタムされたい方にもちょうど良い設定となっています。
選考理由
デミオのホットハッチといえばデミオ スポルトですが、現行モデルでは先にこの15MBが追加されました。マツダはモータースポーツのためのベースグレードとして位置付けていますが、ホットハッチとしても高水準でまとまっていると考えられることから、このモデルを選びました。
関連情報
参考価格:150.1万円
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マツダ デミオ 15MB (公式サイト)
注目度第5位 MINI ジョン・クーパー・ワークス
BMWのブランドとなった新生MINIも、早くも3世代目となりました。代を重ねるたびにバリエーションが拡充されてきたMINIですが、中でも元はMINIチューニングメーカーで、後にBMWに買収されたジョン・クーパー・ワークス社の名を冠したハイパフォーマンスモデルは、MINIのラインアップ拡充に一役買ってきました。最新のMINIでもジョン・クーパー・ワークスはカタログモデルとして設定され、クーパーSの上を行くトップグレードとして存在感を発揮しています。
従来の1.6Lに代わって新たに採用された2.0Lのツインターボエンジンは231馬力を発揮。ワイド&ローな迫力あるフォルムをもつミニのルックスに相応しい動力性能を提供します。変速機は6MTと6ATが設定されています。
選考理由
MINIをBMWのモデルとして捉えた場合、BMWにはもう1台魅力的なホットハッチの存在があることを思い出さなくてはなりません。直列6気筒エンジンで後輪を駆動するM135iです。数少ない伝統の直列6気筒エンジンに稀有な後輪駆動、しかも次世代の1シリーズは前輪駆動への転換が決まっているとなれば、こちらのM135iも捨て難い存在でした。
但し、BMWはM135iと同じプラットフォームやパワートレインを使った2ドアクーペのM235iを販売しています。こうなるとM135i独自のホットハッチとしての尖った部分がやや見付け辛いことも否めず、MINI ジョン・クーパー・ワークスを選びました。
関連情報
参考価格:398万円
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MINI ジョン・クーパー・ワークス (公式サイト)
注目度第4位 セアト レオン クプラ290
セアト レオンは、ドイツのフォルクスワーゲンのスペインの子会社、セアトが展開するCセグメントのハッチバックモデルです。現行のセアト レオンはMQBプラットフォームを採用して2012年に登場、フォルクスワーゲン ゴルフやアウディ A3、シュコダ オクタヴィアなどの兄弟車になります。今回ご紹介するレオン クプラ290は、レオンのスポーツモデルとして最高峰に位置づけられているモデルです。
レオン クプラ290のパワートレインはフォルクスワーゲン ゴルフGTIと同じ2.0Lターボエンジンを流用しつつも、その出力は最新モデルでは290馬力に向上しています。またLSDはゴルフGTIが採用しているブレーキを利用したXSDではなく、電子制御の本格的なメカニカルLSDが採用されています。また変速機は6DSGはもちろん、3ペダルの6MTを選ぶことができます。
選考理由
フォルクスワーゲングループは1977年のゴルフGTI以来、ホットハッチというジャンルを確立してきました。現在もフォルクスワーゲンから、ポロ GTIやゴルフ GTI、そしてその上位のゴルフR が、アウディからはS1やRS1、S3やRS3が発売されており、ホットハッチを語る上では見逃せません。一方でフォルクスワーゲンやアウディのホットハッチは、近年は純粋なスポーツモデルではなく、電子制御で武装した快適な高速移動手段としての色合いも強まっています。
その中で、打倒ルノー メガーヌRSを目指すレオン クプラ290は、ニュルブルクリンクのタイム短縮を念頭に、スポーツモデルとして徹底したブラッシュアップが行われています。例えば先代ではタイム向上の足枷となっていたXDSを廃止して、現行モデルでメカニカルLSDに移行した点は、特筆に値するでしょう。このような点から、フォルクスワーゲンブランドを代表するホットハッチとして、日本ではマイナーなレオン クプラ290を選びました。
関連情報
国内乗り出し価格:590万円(2ドアSC 6MT車)※12月31日時点の為替換算額
関連リンク
セアト レオン クプラ 280 (YMワークス)※マイナーチェンジ前のモデルの情報です
注目度第3位 ルノー メガーヌRS
ルノー メガーヌRSは、ルノーが販売しているCセグメントのハッチバックモデル、メガーヌのトップグレードです。2011年にはニュルブルクリンクで当時の前輪駆動車としては史上最速の8分7秒97の記録を打ち立てました。その後もタイム更新を続け、2014年には7分54秒36を記録しています。
メガーヌRSのパワートレインは2.0Lのターボエンジンで、通常仕様の最高出力は265馬力、特別仕様の最高出力は275馬力ですが、どちらもライバルに比べると控えめです。エンジンの絶対的な性能に依存せず、シャシー性能を含めて総合的にバランスの高い自動車を開発する、ルノースポールの真髄を味わえるモデルです。
選考理由
ルノーでは、メガーヌよりも小さなクリオ(日本名ルーテシア)にもRSを設定しています。こちらは1.6Lのターボエンジンに6EDC(デュアルクラッチ・トランスミッション)を組み合わせ、ニュルブルクリンクでは8分23秒のパフォーマンスを発揮しながらも、日常域でも使いやすいモデルに仕上がっています。
しかし、6MTの設定や、ルノースポール自慢のダブルアクシス・ ストラットシステムが採用されていること、そして恐らく2016年が現行メガーヌRSを新車で購入できる最後のチャンスになることから、ここではメガーヌRSを選びました。
関連情報
参考価格:396万円
関連リンク
ルノー メガーヌ ルノー・スポール (公式サイト)
2014年速度記録樹立時の映像記録(約10分)
注目度第2位 フォード フォーカスRS
フォード フォーカスRSは、フォードが販売しているCセグメントのハッチバックモデル、フォーカスのトップグレードです。最新モデルは2014年に登場したMK3で、これまでの前輪駆動を捨て、遂に電子制御式の4WDに舵を切りました。
2.3Lの直噴ターボエンジンの出力は350馬力に達し、0-100km/h加速が4.7秒、最高速266km/hという圧倒的なパフォーマンスを発揮します。一方で変速機は、従来通りコンサバティブな3ペダルの6MTが組み合わせられています。
選考理由
フォーカスRSは、今回選んだ中では唯一の4WDとなります。これまでヨーロッパでは常にメガーヌRSやシビックタイプRと比較されてきたフォーカスRSですが、4WDへの転向によって、前輪駆動車の速度競争という前線からは一旦離れたことになります。
とはいえ、4WD勢のフォルクスワーゲン ゴルフRやアウディ RS3、メルセデス・ベンツ AMG A45と比べると、変速機が6MTのみという点を見ても、そのコンセプトはあくまでもピュアスポーツであり、正式発表よりも前からニュルブルクリンクで走りこむ姿も何度も目撃されてきました。4WDのホットハッチに新しい時代を築くことになるか、期待を込めてフォーカスRSを選びました。
関連情報
国内乗り出し価格:580万円 ※12月31日時点の為替換算額
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フォード フォーカス RS (YMワークス)
注目度第1位 ホンダ シビック タイプR
ホンダ シビック タイプRは、2015年に発表されるや否や日欧で話題になり、日本では限定の750台が早々に完売しました。ニュルブルクリンクでは前輪駆動車最速となる7分50秒63のレコードを記録。あのNSXを含み、タイプRを名乗るホンダ車として堂々の歴代最速をマークしています。
またエンジンは伝統の自然吸気から、遂にターボ化を断行。最高出力は310馬力に、最大トルクは400Nmの大台に達しました。従来の高回転型のタイプRとは少なからず性格が変わったものの、ターボエンジンによってホンダは新しいタイプRの歴史を紡いでいくことでしょう。
選考理由
ルノー メガーヌRSと並んで、ホンダ シビック タイプRは、2016年現在、ホットハッチについて考える上では絶対に見逃せないモデルです。前輪駆動という制約の中で、過酷なニュルブルクリンクのコースで往年のスーパーカー顔負けのタイムを出すべく切磋琢磨する両社に、心動かされるクルマ好きも多いのではないでしょうか?
ところがこのシビック タイプR、デビューから間もないものの、2016年には早くもラインを閉じてしまうという情報が出ています。背景には生産を担当するイギリスの工場の生産能力の都合などがあるようですが、いずれにしても新車で手に入れるならば、早めに動くことが必要になりそうです。
関連情報
国内乗り出し価格:590万円(UK仕様車)※12月31日時点の為替換算額
関連リンク
ホンダ シビック タイプR (YMワークス)
対決動画:シビック タイプR vs メガーヌRS トロフィ vs レオン クプラ280
まとめ
以上、駆け足でベスト10を紹介して来ましたが、いかがでしたでしょうか?注目度の順位については賛否両論あるかもしれませんが、いずれも選りすぐりのモデルですので、この中から皆様の興味を惹くものがあれば幸いです。
最後に2016年のホットハッチ予想図です。まずヨーロッパでは2015年秋のフランクフルトショーでボクスホール/オペルが新型のアストラを発表しています。ダウンサイズを売りにした新型アストラですから、そのスポーツモデルであるVXRのパフォーマンスは気になるところです。同じくフランクフルトショーでデビューを飾ったルノーの新型メガーヌのRSがどのようになるのかも注目されています。一説には3ドアモデルが廃止されて5ドアのみになるという情報もありますが、搭載されるエンジンも含めて、パフォーマンスの追求はどうなっていくのか気掛かりなところです。
日本では低価格なスズキ アルト ワークスなどが、どのくらいホットハッチ市場を活性化するのかが注目です。刺激されて他社の既に販売されているホットハッチも、更に磨きをかけるかもしれません。
このようにホットハッチのラインアップが充実する中で迎えた2016年ですが、各社生産能力などから現在販売されているモデルがずっと続くとは限りません。ホンダ シビック タイプRやアバルト 695は、生産中止後はプレミア必至となるでしょう。2016年はホットハッチ市場からますます目が離せない1年になりそうです。
※本記事は2015年12月31日時点の情報を元に作成しております。最新の情報に関しては直接ご連絡にてご確認ください。また、記載情報の誤りがある場合はお知らせください。