日本ではフィアット500シリーズの影に隠れてしまったように見えるパンダですが、イタリア本国の2016年新車登録台数ではパンダが堂々のトップで19万1000台と、2位の500の18万5000台と並んでベストセラーとなっており、イタリア人の生活に根付いた実用車として高い人気を誇っていることがわかります。(2017年1月 FCA発表データより)
この記事では、パンダのSUVモデルであるパンダ クロス(Panda Cross)について解説します。また、日本で乗るための並行輸入情報も掲載しています。
この記事の目次
モデルの概要
現在のフィアット パンダは2011年にデビューした3代目モデルです。初代は1980年デビューし、ジウジアーロの手による直線基調のシンプルなデザインが人気を呼びました。今でも大切に乗られている初代パンダを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
パンダは初代から四輪駆動(4WD/AWD)の「4×4」モデルをラインアップしていました。初代は1983年にデビューしたパートタイム式四輪駆動モデルで、エンジン横置きのFFベースとしては初の四輪駆動モデルでした。以来2代目、3代目にもラインナップされ、パンダの伝統となっています。
現在の4×4モデルは電子制御トルクオンデマンドのフルタイム式を採用しています。先代のビスカスカップリング方式から、より緻密な制御が可能な最新のシステムへと進化しました。この4×4モデルは日本にも限定発売というかたちで正式輸入されており、輸入車の四輪駆動の中で最も手軽なプライスで乗れる一台となっています。イタリアも都市部から少し外れれば、日本の山間部と同じような細くて急な山道が多く、しかも北部は降雪や凍結も。そんなところを安全に走るために便利なクルマとしてパンダ4×4は選ばれているのでしょう。
こうしたパンダ4×4をベースに、専用のエクステリアを纏ったのがパンダ クロスです。2014年のジュネーブショーでデビューし、その個性的なデザインが注目を浴びました。「ポケットサイズSUV」と本国のWebサイトなどで主張しているように、最もコンパクトなSUVのひとつとなっています。
ハイライト
エクステリア
個性的な専用エクステリアでSUVらしさを強調
どちらかと言えばかわいらしいデザインのパンダを、前後に装着された金属製の大きなアンダーガードや、幅広メタル調のサイドプロテクターなどでワイルドに演出しています。
ボディ下部の黒い樹脂製プロテクターはフロントまで及び、まるで歌舞伎の隈取りのようにヘッドライト全体を巻き込んで顔つきを精悍に見せています。15インチと大径化されたタイヤにより、実際のボディサイズ以上に迫力を感じさせる仕上がりです。
オフローダーとしてのスペックも充実しています。全高は4×4モデルよりもさらに42ミリ高められて1,657mm。最低地上高はツインエアエンジンで161mm、マルチジェットエンジンで158mm、走破性の目安となるフロントのアプローチアングル24°、リアのデパーチャアングル34°と充分なスペックを確保しており、段差やわだちなどの走破性を高めています。
インテリア
イタリア製品らしい洒落たコーディネート
パッケージングはベースとなるパンダと共通です。Aセグメントに属するコンパクトなボディですが、全高を活かしてアップライトな姿勢で座らせることにより十分な空間を確保しています。基本は4人乗りですが、オプションの後席センター用のシートベルトを装着すれば5人乗りも可能です。
ダッシュボードはパンダクロス専用のブラウン基調のパネルとなり、シートもそれに合わせたファブリックを採用しています。イタリアのクルマらしい、洒落たコーディネートです。
パッセンジャーシート前のダッシュボードは、サングラスなどの小物が置ける棚になっており、これは初代パンダのデザインをモチーフにしたものです。さらにドアポケットやリアの足元にも小物入れが用意されるなど、実用性に抜かりはありません。
荷室容量もパンダ、もしくはパンダ 4×4と共通の225Lで、日常的な買い物なら充分な広さです。さらに40:60の分割可倒式のリアシートを活用すれば、マウンテンバイクや長尺物も積載可能です。
パワートレイン
高効率なダウンサイジングエンジンを2種用意
0.9L 2気筒ガソリンターボのツインエア(TwinAir)と、1.3L 4気筒ディーゼルターボのマルチジェット(Multijet)の2種類が用意されます。
直列2気筒ならではのビート感が特徴的なツインエアエンジンは、875ccと排気量こそ小さいながらも、ターボ加給により90馬力を発揮します。トランスミッションは通常の5速にエクストラ・ローを追加した6速MTの組み合わせです。欧州複合値で20.4km/Lの燃費は、ディーゼルエンジンにも遜色しない優れた値です。
一方のマルチジェットは、Euro6に適合した直列4気筒 1.3Lのディーゼルターボエンジンで、最高出力は95馬力、トルクは1,500回転で200Nmという、2.0Lガソリンエンジンに匹敵するトルクを発揮します。こちらは5速MTとの組合せとなり、燃費は欧州複合値で22.2km/Lです。
どちらも現代的な設計のダウンサイジング・高効率エンジンで、アイドリングストップの「Start&Stop」機能も標準装備です。このふたつのエンジンの大きな違いは重量です。ツインエアは軽量で、街中やワインディングでの軽快な回頭性が美点です。マルチジェットは重量が嵩むものの、高速道路などで優れた直進性を発揮します。低速域から豊かなトルクを発揮するため、荷物満載で走る機会が多い場合にも向きます。
サスペンション
剛性を高めた駆動系と電子制御4WDの組み合わせ
パンダ クロスの四駆システムは、パンダ 4×4と共通の電子制御トルクオンデマンドのフルタイム式です。通常走行時は駆動力の100%近くを前輪に割り当てますが、路面状況に応じて必要な駆動力が後輪に配分されます。従来のビスカスカップリングは機械的な作動しか行えませんでしたが、電子化されたことで緻密な制御が可能になりました。
さらにぬかるみや深雪、凍結路面などの低μ路での走行や脱出のために、ELD(Electronic Locking Differential)と呼ばれる制御機構を備えます。パンダクロスは機械的なセンターデフを持ちませんが、ELDにより前後の駆動力を50:50に固定した直結4WDに近い状態を作り出すことが可能となり、強力な走破性を発揮します。
ドライバーズシートからすぐに手が届く位置には、オール・テレイン・セレクターのコントローラーが装備されています。これを「オート」にしておけば、通常は電子制御により適切に駆動配分され、「オフロード」モードでは積極的に後輪に駆動力を配分、急な下り坂では「ヒルディセント」モードを選ぶことで一定の極低速を自動的に保ち、安全なダウンヒルが可能です。
パンダ4×4同様に駆動系の剛性もアップされています。サスペンションのアームやメンバーもより太く頑丈なものとなり、悪路走行でのハードな走りにも対応します。また、先代パンダ 4×4ではセミトレーリングアーム式であったリアサスペンションは、トーションビームへ変更しています。さらに、リアブレーキもベースのパンダのドラム式からディスクブレーキへと強化されました。
参考スペック
フィアット パンダクロス TwinAir(イギリス仕様2017年モデル)
寸 法 ▶︎全長×全幅×全高=3,705 × 1,662 × 1,657 mm
ホイールベース:2,300mm トレッド前/後 -x-
エンジン▶︎水冷直列2気筒ターボ フロント横置
875cc 80.5×86.0mm - 90ps/5,500rpm 14.8kgm/1900rpm
駆動方式▶︎4WD 6段MT
懸架装置▶︎前:マクファーソン・ストラット
▶︎後:トーションビーム
ブレーキ▶︎前:ベンチレーテッド・ディスク 後 ディスク
タイヤ ▶︎前:185/65 R15 後:185/65 R15
燃料容量▶︎35L 車両重量▶︎- 最高速度▶︎167km/h 0-100km/h加速▶︎12.0秒
燃 費 ▶︎20.4km/L(欧州複合基準)
価 格 ▶︎16,255ポンド(イギリス仕様車)
※その他の仕様のスペック詳細はカタログ情報(リンク)をご覧ください
ライバルモデル
全長3.7mで本格的な悪路走破性能を備えたパンダクロスのようなモデルは殆どありませんが、スズキが販売しているジムニー シエラとイグニスの2車種はライバルと呼んでも差し支えない数少ない存在です。
ジムニー シエラの4WDは直結式(パートタイム式)で舗装路を諦めて極限状態での走破性を優先したモデルです。イグニスの4WDは生活四駆的なビスカス作動式で絶対的な走破性では劣るものの、余裕あるアプローチアングルやデパーチャーアングル、最低地上高には同社の豊富な4WD経験が活かされています。
フィアットとスズキの両社は、スズキからSX4をOEM供給したりフィアットからディーゼルエンジンを供給したりと浅からぬ縁があり、この3車種からも何か共通の雰囲気を感じ取る方もいるかもしれません。
バイヤーズガイド
日本へ正規輸入されているパンダですが、2017年6月現在はツインエアと5速デュアロジックを組み合わせたモノグレード展開で、4×4及びパンダクロスの販売はされていません。パンダクロスを日本の路上で見かけることはまず無く、その個性的なエクステリアデザインも手伝って注目度は高いはずです。それに伴って所有する満足度も高いものになるのではないでしょうか。
見た目だけSUVルックにしたのではなく、駆動系の剛性強化に始まり、実用的な4WDシステムの搭載、ツインエアで161mmという最低地上高など、雪深い土地での生活四駆以上の本格的なオフロード性能を持っています。日本の道でも運転しやすいサイズ、5ドアによる実用性の高さ、最新鋭のダウンサイジングエンジンの優れた経済性も、パンダクロスならではの魅力です。
2気筒ならではの個性的なビートや、エンジンが軽量であるがゆえの軽快な回頭性を味わいたい方は、ガソリンエンジンのツインエアがおすすめです。一方で2気筒独特の振動が苦手な方や、とくに低速トルクを重視したい方、高速道路での長距離移動の多い方にはディーゼルエンジンのマルチジェットが最適でしょう。
2017年現在のパンダクロス日本導入の可能性
前述のとおり日本へ正規輸入されているパンダですが、限定販売されたパンダ 4×4の再販もない状況を鑑みると、パンダクロスの導入は見込み薄と思われます。
パンダ 4×4は中古車市場に少数ですが流通しています。パンダクロスほどの走破性が不要で、個性的な専用のエクステリアにこだわらないのであれば、検討するのも方法です。
並行輸入という選択肢
前述のように正規輸入の可能性が低いパンダクロスですが、並行輸入を行えば日本で所有することができます。
一例としてコアカーズを運営する並行輸入者販売店のYMワークスでは、最新の為替レートを反映したパンダクロスの乗り出し価格を案内しています。下記表では最新の為替レートに基づいた価格を表示しています。
現在、英国内のグレード整理・価格改定に伴う調整作業中です。日本国内での乗り出し価格の目安はお問い合せ下さい。
※国内乗り出し価格目安は、ご覧の時点での為替レートにて算出しております。 金額が表示されない場合は、しばらく経ってから再度アクセスをお願いします。
車両詳細画像ギャラリー
フィアット パンダクロスのカタログダウンロード
・フィアット 英国 パンダ クロス カタログダウンロード(Fiat UK Panda)※個人情報が必要です
フィアット パンダクロスの現地法人・ディーラーリンク
・フィアット 英国 パンダ クロス オフィシャルサイト(Fiat UK Panda)
・フィアット 英国 パンダ クロス コンフィギュレーター(Fiat UK Panda)
※本記事は2017年6月1日時点の情報を元に作成しております。最新の情報に関しては直接ご連絡にてご確認ください。また、記載情報の誤りがある場合はお知らせください。