2016年、日本ではフォードにとって大きな節目の年になりました。2016年が始まった矢先に、フォードの日本からの撤退が発表されたのです。撤退は段階的に行われ、2016年9月末にはすべての店舗でフォード正規輸入車の新車販売が終了しました。
惜しまれる中、2016年11月8日、今年もEurope Ford Meeting(EFM、ヨーロッパ フォード ミーティング)が開催されました。会場はMAZDA ターンパイク箱根(神奈川県足柄下郡湯河原町)の大観山駐車場 Fで、当日は晴天に恵まれ、薄く雪を被った富士山を背景に、多くの参加者が交流を楽しみました。
フォードの各車種の解説記事を掲載しているコアカーズも、このEFM 2016に参加、取材を行いました。今回はEFM 2016のイベントレポートをお伝えします。
この記事の目次
フォードの近況と日本撤退
日本へのフォード車の輸入が開始されたのは、1905年まで遡ります。1925年には子会社の日本フォードが設立され、日本国内での生産も行われるなど、古くから日本との結びつき強い海外メーカーでした。
一方で、近年は日本での存在感が決して強くなかったことも否めませんでした。質実剛健とした設計や、世界中で広く受け入れられるために工夫されたデザインは、輸入車に分かりやすい付加価値が求められることが多い日本では、地味な印象であったり、個性が薄いと受け取られてしまっていたのかもしれません。また、異なる個性・魅力を持つ北米生まれのフォードと、欧州生まれのフォードが、同じような売られ方をしていたのも、クルマを買おうとする人にとっては難解な状況を生んでいました。
フォード自身も北米と欧州で別のメーカーのようになっている状況は良しとしておらず、2010年代に入ると「ワンフォード」と呼ばれる戦略を取り、これまで存在した北米と欧州の垣根を超えて、それぞれのモデルを世界中で販売していくことを決めていました。これに伴い、従来左ハンドルしか設定のなかったマスタングに右ハンドルが設定されイギリスでヒットしたり、逆にヨーロッパのホットハッチの代名詞だったフォーカスRSが北米で展開されるなど、まさにこれから新しい歴史を紡がんとしているところでした。そんな矢先の日本からの撤退を、残念に感じられた方も多かったのではないでしょうか。
Europe Ford Meetingについて
EFMとも呼ばれるヨーロッパ フォード ミーティングは、日本でも特に知名度の低かったヨーロッパ生まれのフォードのミーティングとしてスタートしました。元々は関西と関東に分かれてのイベントとして行われていましたが、モーターランドSUZUKAで行われた2013年には全国規模のイベントに発展、さらに名阪スポーツランドで開催された2015年は、フォードジャパンが協賛したこともあり、多くのメディアからの注目を集めました。
これからますます盛り上がるというところでのフォード撤退のニュースの中、EFMはオフ会の原点に戻るというコンセプトから会場を箱根にセッティング、再スタートを切りました。そして当日はフォード撤退のバッドニュースを跳ね返すかのように、新旧さまざまなフォードの車種が集まったのです。
参加車種紹介
フィエスタ
フォードの代表的なコンパクトカーであるフィエスタ。1976年からの長い歴史を持つモデルですが、EFM 2016には2001年から2008年まで販売されたフィエスタ Mk6、2008年から販売され、2017年に次世代への移行が予定されているMk7が多数お目見えしました。またフィエスタのホットハッチ仕様であるSTも、新旧のモデルが揃いました。また、コアカーズもフィエスタST Mk6にて参加しています。
やはり注目度が高かったのはフィエスタ ST Mk7。2013年の登場から3年が経ちましたが、その存在感は未だ色褪せていません。以前はBBCのトップギアの名物司会者として名を馳せ、2016年からはAmazonプライム・ビデオのオリジナル番組 The Grand Tourに活躍の場を移しているジェレミー・クラークソンが、登場以来終始絶賛してきたモデルでもあります。
また日本に正規輸入車としては未導入だったフィエスタMk7前期型(後期型は便宜上Mk7.5と呼ばれることもあります)も登場、美しいワインレッドのボディが存在感を発揮していました。
フォーカス
1998年の初登場時、ヨーロッパのCセグメント市場に激震を走らせたフォーカス。EFM 2016には全世代のフォーカスが揃いました。
最新のフォーカスMk3は、フェイスリフト前後のモデルが揃い踏み。5ドアハッチバックモデルが多数を占める中で、白いエステートは異彩を放つ存在で、多くの方が足を止めている姿を目にしました。
2010年まで生産されたフォーカスMk2は、STとRSが参加。STはいずれも前期型で、ソリッドで、どこかエスコートを彷彿とさせる姿は、登場から10年が経っても色褪せない魅力を持っています。後期型で登場したRSは非常にマッシブなイメージ。3ドア、FFのRSとしては最後のモデルとなったことや、迫力のあるオーバーフェンダーなどから、今でも人気の高いモデルです。
初代フォーカスも、非常にレアなRSが参加。3ドアの精悍なデザインと濃く、鮮やかなブルーは、秋空の中によく映えていました。
フォーカス C-MAX
後継ではC-MAXと名前を改めた小型ミニバンですが、元はフォーカスの派生車種として登場し、日本にも正規輸入されていました。
WRCに代表されるスポーツイメージの強いヨーロッパフォードですが、実はミニバンのパッケージングも得意科目。乗車定員は5人ですが、リアシートを斜めにスライドさせると、4人乗りのリムジンのように使うこともできる使い勝手の良さを持っていました。
エスコート
フォーカスの前身モデルであるエスコート。元はアングリア(近年は映画『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で空を飛んだクルマとしても知られています)のステーションワゴンボディに与えられたネーミングでしたが、Cセグメントの独立モデルとしては1967年に登場、フォーカスへのバトンタッチまでに6世代を刻みました。
今回のEFMには、末期エスコートのイメージリーダー的な存在であったRS コスワースが登場。通常のエスコートが横置きエンジンのFFだったのに対して、縦置きエンジンの4WDは、シエラ サファイア RS コスワースをベースにするなど、その設計はノーマルモデルと全く異なるものです。またエンジンの搭載方向に違いはあるものの、4WDというコンセプトは時代を超えて、フォーカスRS Mk3に継承されているということもできるかもしれません。
モンデオ
1993年にシエラの後継車としてDセグメントに投入されたモンデオ。日本市場では当初日本車顔負けの低価格を武器に展開されましたが、良くも悪くも価格や戦略が批評の対象となり、本来持っていた実力が十分に評価されなかったことは否めません。
EFMに参加したのは、2000年にフルモデルチェンジを受けた2代目に相当するMk3、そのスポーツモデルのST220(世代と呼称にギャップが生まれたのは、Mk2は初代のビッグマイナーチェンジモデルを指すことに起因します)。
ST220は当初2005年に僅か20台で限定導入、翌年カタログモデルとなったものの直後に3代目Mk4にモデルチェンジしたため、日本への総輸入台数は60台弱に留まるとも言われています。1,000km走っても疲れないというオーナーの愛車紹介コメントも印象的でした。
シエラ
モンデオの前身であるシエラはコーティナ(コルチナ)とタウヌスを統合する後継車として1982年に登場。1987年にはビッグマイナーチェンジを受けMk2に移行しますが、1993年にモンデオにバトンタッチして、実質1世代限りで歴史に幕をおろしました。
当初は3ドア/5ドアのハッチバックとして登場、その後市場の要望を受けてサファイアと呼ばれる4ドアセダンが追加投入されており、今回EFMに参加していたのはサファイアのMk2でした。
迫力あるルックスは当日、EFM関係なく箱根に訪れたクルマ好きの注目を集めていました。個体の細かいエピソードを伺えなかったことがコアカーズとしては悔やまれます。
Ka
1996年にAセグメントのハッチバックとして登場したKa。熟成の進んだOHVエンジンを搭載していたという点で、日本では新車当時はルノー トゥインゴの初代モデルと比較される機会も多かったように思います。とはいえ細部に目を向けると、エンジンが古典的という点以外ではKaとトゥインゴはかなりコンセプトの違うモデルでした。
EFMにはKaは4台が参加、中でも注目度が高かったのがラリー仕様モデルです。元はフォードジャパンがデモカーとしてワンオフで製作した個体で、レース出走可能な要件を満たしていたものでした。その後公道対応が行われ、現在も少しずつ仕上げられている途中とのことです。
クーガ
フォードのSUV=北米モデルという印象が抱かれがちな中で、欧州発のグローバルモデルとして近年存在感を増しているクーガ。EFMには2008年に登場した初代と、2012年に移行した2代目の両方が参加しました。
オーナーの中にはフォード撤退にあわせてクーガを買い換えたという方も。またEFMの前の週にはクーガでオフロードを走るオフ会も行われたとのことでした。熱心な愛好家が多いクーガ、次回機会があれば取材したいと考えています。
マスタング
イベント後半には今回唯一北米フォードから、マスタングのスペシャルモデル、シェルビーGT500が参加。黒いボディに赤いストラップはフェイスタSTと重なる部分があり、2ショットが実現しました。折角なら芦ノ湖を背景に並べられたら良かったなとも思いますが、北米x欧州のスポーツモデルの2ショットは、日本でもこの先フォードが忘れられるブランドにならずに済むような、そんな可能性を感じさせるワンシーンとなりました。
EFMを通して感じたフォードの可能性
2000年代以降、日本からは輸入車の撤退が相次いでいます。中にはサーブのようにブランド自体が消滅してしまったことに伴うケースもありましたが、日本でかつて相応の存在感を持っていたブランドとしては、フォードの撤退は2006年のオペル撤退以来のインパクトを持つ出来事かもしれません。オペルはその後ヨーロッパで息を吹き返し、精力的なニューモデル展開を行いシェアを少しずつ伸ばしていますが、そのことがもはや日本で話題になることはありません。
EFM参加前はこのままではフォードブランドが忘れ去られてしまうのではないかという危惧もありましたが、EFMの盛り上がりを見ると、ひとまずは杞憂かとも感じました。このようなイベントが今後も続き、また多くの方に知ってもらえるように、コアカーズも精力的な取材や告知、バックアップを行いたいと考えています。またフォードのメンテナンスや新車購入情報についてお伝えしていく予定です。
Europe Ford Meeting(EFM)2016 ギャラリー
※本記事は2017年1月4日時点の情報を元に作成しております。最新の情報に関しては直接ご連絡にてご確認ください。また、記載情報の誤りがある場合はお知らせください。