車内で生活することが出来る設備を備えたキャンピングカーは、色々なクルマがある中でも、かなり特殊な種類のものであることは否めません。キャンピングカーにあまり詳しくないクルマ好きがキャンピングカーを見ると、例えば普段スポーツカーと接することが多い方は、そのパワーウェイトレシオの低さに驚かれるかもしれませんし、ミニバンが好きな方は、大柄な車体の割に乗車定員が少ないことに驚かれるでしょう。
しかし、キャンピングカーは多くの技術的、加えて法的な制約も多い中で、より使いやすくなるために日々進化を続けています。その進化の内容は、キャンピングカーの購入・所有を考えていないクルマ好きにとっても興味深いものが多く、掘り下げていくと、キャンピングカーがちょっと身近な存在になるかもしれません。
今回は2月2日から5日まで行われたジャパンキャンピングカーショー2017の様子を交えながら、最新のキャンピングカーのトレンドを、コアカーズならではの視点でお伝えします。
この記事の目次
日本におけるキャンピングカー市場動向
かつてバブル期からRVブームにかけて、日本でもヒットしたキャンピングカーですが、経済性や使い勝手の問題から一時期は勢いが衰えていました。しかし2000年代後半から、キャンピングカー市場は再びの盛り上がりを見せ始めました。
それには複数の理由が考えられます。たとえば高速道路の通行料が1,000円均一となった際に、車中泊を併用した長距離旅行が増えたことは、しばしば理由のひとつと考えられています。1,000円高速道路自体は賛否両論があり、また長くは続かなかったものの、車中泊が自由な旅行をする手段として有意義であることを知るきっかけとなり、車中泊で旅をする向きは1,000円高速道路終了後も定着しています。結果、より快適な車中泊が可能なキャンピングカーへの関心が高まっています。また車中泊が可能なキャンピングカーは、万一の災害時のシェルターとして使うことができる場合もあるなど、防災アイテムとしての側面も注目されています。
他にも、販売されているキャンピングカーのバリエーションが増え、購入の敷居が下がっていることも理由として挙げられます。特に近年はシャワーやトイレ、場合によってはキッチンも省いたコンパクトで低価格なモデルのラインアップが充実しているため、キャンピングカーへの関心を持ちやすい環境が整っています。これは道の駅をはじめ、ロードサイドに広大な駐車スペースや飲食スペースを持つ施設が1990年代以前より充実していることが背景として挙げられます。さらに手頃なキャンピングカーの存在は、それが導線となり、フル装備のキャンピングカーへの関心を高めることにも繋がっています。
盛り上がりを見せる日本のキャンピングカー市場ですが、2017年のトレンドとしては、ベース車種のモデルチェンジに伴う動き、電源に関する種々の技術投入の2つが挙げられます。この2つに注目してみましょう。
2017年のキャンピングカーベースモデル最新動向
フィアット デュカトの日本導入検討が話題に
欧州ではキャンピングカーのベース車として広く支持されているフィアット デュカト。長らく日本にキャンピングカーとしての輸入が行われてきたほか、日本向けに左エントランスとして日本製のエアコンを搭載したモデルも登場するなど、その存在感は年々増してきていましたが、2017年のジャパンキャンピングカーショーでは遂にフィアット・クライスラー・ジャパンによるベース車両の展示が行われました。普段接する機会の少ないデュカトは強い関心を集めました。
トヨタ コースターがフルモデルチェンジ
デュカトのような大型のバンボディが存在しない国産車ですが、代わりにマイクロバスが大型キャンピングカーのベース車として選択されています。中でも人気車種のトヨタ コースター、その兄弟車の日野 リエッセIIが2016年末にフルモデルチェンジ、2017年注目のベース車として関心が集まっています。
新型コースター/リエッセIIは従来よりも室内空間を拡大、居住性を向上させました。これはキャンピングカーとして架装した場合の使い勝手にも大きく貢献してくれることが期待されます。
トヨタ カムロードがマイナーチェンジ
トヨタ ダイナ/トヨエース1t系モデルをベースに、キャンピングカー用のカスタムモデルとしてビルダーに供給されるカムロード。2016年、ベース車のマイナーチェンジに少し遅れつつ、カムロードもマイナーチェンジが行われました。フロントマスクはやや精悍なデザインに変わり、インテリアも丸みを帯びたダッシュボードに刷新されています。
基本設計はやや古いモデルですが、熟成が進んでいることから支持率の高いカムロード。今回のリフレッシュにより、より親しみやすいモデルとなっています。
マツダ ボンゴがマイナーチェンジ
カムロードベースのものよりも小型なキャンピングカーのベース車として人気のボンゴ。こちらも基本設計は古いものの、キャンピングカーでの実績の高さから広く支持されてきました。2016年にはリアダブルタイヤからシングルタイヤに移行。
ダブルタイヤは万一のバースト時でも横転のリスクを抑える一方で、トレッドが狭くなることから、元々車幅の狭いボンゴでは、特に雪道で轍が出来ている場合に運転が難しいと指摘する声もありました。リアシングルタイヤ派のユーザーにとっては、ボンゴは従来よりも魅力を増したベース車両となるでしょう。
いすゞ ビーカムのワイドボディが市場に復活
リアダブルタイヤや排気ブレーキ装備で重架装に対応したいすゞのキャンピングカーベース車、ビーカム。ナローボディとワイドボディがラインアップされていましたが、ワイドボディの市場ラインアップは一旦途絶えていました。
現在、唯一ビーカムベースのキャンピングカーを製造している日本特種ボディーが、満を持してワイドボディ仕様を投入。先行して2016年にお披露目されていたカタログモデルのASAKAZE(アサカゼ)に加えて、ジャパンキャンピングカーショー2017ではフルオーダーカスタムモデルのSINOBI(シノビ)を展示。内装を架装していない参考出品という形態でしたが、ダークグリーンの大きな車体は強い存在感で関心を集めました。
軽自動車ベースモデルの更なる充実
手頃な価格と安価な維持費、そして扱いやすいボディサイズで定評のある軽自動車ベースのキャンピングカー。従来は軽トラックや軽バンがそのベースの主流でしたが、ダイハツ ウェイクやホンダN-BOXなど、バンに比肩する室内空間を持ちながら、軽乗用車として一般的なFFを採用したモデルの拡充により、これらをベースとした軽キャンパーのラインアップも充実しています。
欧州設計の商用車ベースのアメリカ製キャンピングカーの増加
古くはウィネベーゴ リアルタなど、欧州車をベースとしたアメリカ製のキャンピングカーは皆無ではありませんでしたが、近年はフォードやクライスラーが世界中で車種を統一する方向にシフトしていることから、欧州で設計されたモデルがアメリカでキャンピングカーとして架装される事例も増えはじめています。
ベース車種としてはフォード トランジットやダッジ ラム バン(フィアット デュカトの兄弟車)があり、欧州車とアメリカ車の良いところ取りの新たなモデルが次々と登場しています。
2017年のキャンピングカーの電源事情
高温多湿な日本のキャンピングカーでは、夏場の温度管理がひとつの課題となっています。ポップアップルーフを搭載するモデルでは風の流れを作ることができるほか、小型のモデルでは状況に応じて駐車してホテル泊等を併用することで暑さを凌げますが、開口部が少ない大型のモデルでは夏季の冷房が重要な問題となります。
かつてキャンピングカーは発電機で電源を確保していましたが、宿泊スタイルの変化に伴い、近年は発電機の夜間長時間稼働が控えられるようになり、サブバッテリーの容量を確保して、その電力を利用するのが一般的になっています。一方効率の良い太陽電池が普及しはじめていることもあり、電源システムの展示はキャンピングカーショーの目玉のひとつとなっています。
日産自動車:電気自動車の技術をフィードバック
リーフやe-NV200などの電気自動車をラインアップする日産自動車は、リチウムイオン電池の技術をフィードバックしたNV350キャラバンの架装用ベース車を展示しました。これは一度充電すれば数日分の電力を賄えるほどの大容量システムで、一度の旅行中に追加充電をする必要がないと謳われています。(必要な場合はオートキャンプ場などでの充電を行うことができます)
すでにNV350キャラバンをベースにした車中泊車をディーラーで販売している日産自動車ですが、このリチウムイオン搭載車はビルダー向けのベース車として供給される予定です。
日本特種ボディー:24Vの効率的なシステムを構築
前述のように現在唯一いすゞ ビーカムをベースとしたキャンピングカーを販売する日本特種ボディーですが、強固なボディにあわせて、複数の24Vの鉛バッテリーを搭載。さらにこれにいすゞ純正のエアコン、アイクールを組み合わせています。アイクールは長距離を走る大型トラックのキャビン用として開発されたエアコンで、24V電源で動作するものです。このように車体の電源システム全体を24Vで構成することで、家庭用エアコンを搭載する場合に比べてインバーターによる電圧変換のロスが起こらないため、効率に優れています。
同社はさらに、天井に多数の太陽電池を搭載。太陽電池の下部に通気性を確保して、太陽電池の温度上昇を抑えて発電能力を維持したり、発電された電力をバッテリーに効率的に充電するためにキャパシターを搭載するなど、電源管理に対する色々な工夫で注目を集めています。
キャンパー鹿児島:リチウムイオン電池システムを独自開発
キャンパー鹿児島は、リチウムイオン電池を利用したバッテリー「インプラス」を独自開発していることで注目されています。これは従来普及していた12Vの鉛バッテリーを置き換えることを意図したものです。
インプラスは、絶対的な容量こそ上で紹介したNV350 キャラバンには敵いませんが、代わりにベース車を問わず利用することが可能で、走行中の充電にも対応しています。新車に限らず、古いキャンピングカーのリノベーションの選択肢のひとつとしても注目されています。
ナッツRV:エンジンでの短時間充電を実現
ナッツRVは12Vの鉛バッテリーを主体としたシステムを活かしつつ、電源回路を見直した「EVOシステム」を投入しています。これは従来の走行中充電(車輪の回転を電力に変換)に対して、エンジン自体の出力をそのまま取り出すことで、アイドリング中の充電も可能としています。
アイドリング4〜5時間で3つのバッテリーを満充電することが可能とされており、いざというときは一定時間のアイドリングで充電が可能、一方で大量のバッテリーを積む場合に対して重量の増加が抑えられることが長所としてアピールされています。
本田技研工業:注目のモバイルバッテリーはいよいよ秒読み
ホンダは走りのメーカーというイメージを持たれがちですが、S660の製造を担う八千代工業では、同社のバモス ホビオに最適化された脱着可能・改造不要のキャンピングカー架装キットを販売するなど、意外にもオートキャンプへの造詣も深いメーカーです。また、ホンダの発電機はキャンピングカー用の発電機として長く支持されてきました。
使用に問題のないシチュエーションでは、確実な発電手段として有意義な発電機ですが、発電機が使えない場合への対応として、ホンダは近年大容量のモバイルバッテリーを開発中です。
同社の発電機の雰囲気と共通のイメージを持つ大型のモバイルバッテリーは、100Vの取り出しが可能。家庭用コンセントを繋ぐことで電化製品を利用できます。これはサブバッテリーなどを持たない軽自動車ベースのキャンピングカーや、一般的な自動車の車中泊で大きな役割を果たしてくれるでしょう。発売は2017年中が期待されています。
総括とキャンピングカーショーについて
さて、ここまでキャンピングカーのベース車両の動向や、電源に対する各社の取り組みについて触れてきましたが、キャンピングカーに普段興味をお持ちでない方にとっては新鮮に映る部分が多かったのではないでしょうか。
今回で採り上げたジャパンキャンピングカーショーでは、他にもトレーラータイプのキャンピングカーや、トラックの荷台に載せるピックアップキャビン(トラックキャンパー)、さらに乗用車のルーフキャリアなどに取り付けるルーフテントの展示も行われており、完成車としてのキャンピングカーだけではなく、汎用の乗用車での楽しみ方を広げる方法も多数提案されていました。また、規模はやや小さくなるものの、このようなキャンピングカーショーは1年を通して全国各地で開催されています。一度足を伸ばしてみると、ユニークなキャンピングカーの世界が楽しめるかもしれません。加えてキャンピングカーショーは、商用車の最新動向を間接的に知る機会にもなっています。
またコアカーズでは、ピックアップキャビンと組み合わせて楽しめるピックアップトラックや、世界的にも希少なメーカー純正完成車であるフォルクスワーゲン カリフォルニアの記事も掲載しています。あわせてお楽しみください。
車両詳細画像ギャラリー
※本記事は2017年4月9日時点の情報を元に作成しております。最新の情報に関しては直接ご連絡にてご確認ください。また、記載情報の誤りがある場合はお知らせください。